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見て見ないふりをしない。手放した「服」のその先――

 

 皆さんは、手放した服がその後どうなるか、なんてことは考えたことはあるだろうか。世界で1年間に捨てられてしまう衣類の量は、2022年時点で推定9,200万トン(着数にして約3,000億着)。日本では1年間に約80万トン近くもの衣類が新たに出回る一方で、約48.5万トンが廃棄されている。所謂フードロスならぬ、ファッションロスと呼ばれる問題が起きている。
 そんな現実から目を背けるな、と強いメッセージを持って講演会を開いた人物がいる。FTSLのメンバーであり、シサム工房で店舗販売スタッフをしているARISA※1 さん。エシカルジャーナリストとしても活躍の場を着々と広げている。2023年5月13日に大阪梅田のONtheUMEDA館内で開かれたARISAさんの単独講演会「FAIR TRADE FASHION EXPO 2023〜めぐる服の旅〜」に密着した【2023/05】

地球・自分を大切にする暮らし エシカルライフを発信中
(抜粋:ft-lady 公式サイトより)

シサム工房の店舗販売スタッフとして、エシカルジャーナリストとして、「地球や周りの人々、そして自分自身に優しい気持ちになれる人を増やしていけるように、エシカルな現場を伝えたい」とエシカル活動家やプロダクツを取材し発信している
当サイト「FAIR TRADE SHOP L!ST」を運営するFTSLメンバーとしても活躍中

 

01: 服のライフサイクル

冒頭にも述べた通り、「服を手放した後、その服はどこにたどり着くのか」を、想像したことはあるだろうか。ARISAさんはこう紹介する。

私たちが手放した服は、貧しいと言われる地域に輸出され焼却や埋め立てが行われています。日本だけでも年間約48.5万トンの服が焼却や埋め立てによって廃棄されています。これは1日毎に大型トラック130台分が廃棄されている計算です。服の焼却や埋め立てという行為は、人間の身勝手な行動であり、地球環境に何の配慮もない行為です。ちなみに服を焼却するとCO2(二酸化炭素)が排出される、というのは想像しやすいかと思いますが、埋め立てをした際にも地中からメタンガスが放出される、というのはあまり想像しにくいと思います。ちなみにメタンガスはCO2(二酸化炭素)の約25倍の温室効果があり、地球温暖化の1つの要因として服の廃棄が挙げられると思います

  (写真撮影:FTSL編集部 konchan)

驚いた。1つはそんなに沢山の服が廃棄されていた、という事実。それからもう1つ。まさか服の廃棄が地球温暖化の原因になっていた、だなんて……。と、冒頭からショッキングな情報が頭を殴る。ARISAさんは続ける。

環境省が行った調査の結果によると、私たちは1年間で平均18枚の服を購入している。そのうち手放すことになる服は12枚。買ったものの、一度も着用することなくクローゼットの中で眠ったままの服が25枚、とのこと。そう私たちは、まだ着たことがない服がクローゼットの中にあるにも関わらず年間平均18枚も服を買っていることになります。ちなみに手放した服のうち、リサイクルされ、再資源化される割合はたったの5%に過ぎません。残りの95%は冒頭に述べた通り、貧しい地域に輸出された後に焼却あるいは埋め立てによって廃棄されています。では、何故このようなことが起こっているのか? それは大量生産/大量消費の社会システムが大きく関係しています。今からとある映像を見てもらいます。これは、この社会システムが引き起こした現実です

映画「THE TRUE COST ~ファストファッション 真の代償~」予告編映像

今度は映像にガツンと頭を殴れた気がした。ARISAさんは映像を止め、口を開く。

この映像は、2013年4月24日にバングラディシュで起こったラナ・プラザ崩壊事故を追ったドキュメンタリー映画の予告編映像です。死者1,127名、行方不明者は約500名、負傷者約2,500名とファッション業界史上最悪の事故と言われていて、ミシンや発電機の振動がビル崩壊の原因とされています。ビル自体も管理体制がずさんで、事故の前日にビルの壁にヒビが入っていることを指摘していた人も居たそうですが、雇い主から「仕事が無くなってもいいのか」と脅され出勤した結果、悲劇に巻き込まれてしまいました。全てが、服の生産コストを下げるために起きた悲劇。大勢の作り手の給料を払うためにコストが下げられていた訳ではありません。ビルで働いていた人たちの平均月収は約3,900円。物価の低いバングラディシュでもギリギリ暮らしていける金額です。雇い主に給料UPを求めれば、暴力を振るわれることもしばしば。だからこそ映画に出てくる作り手の女性は「私たちの血で作られた服を誰にも着て欲しくない」と涙ながらに語っています。この現実を皆様はどう受け止めますか?

人の命よりも、服の安さが優先される社会。その大きな理由は大量生産と大量消費のシステムです。私たちの周りには服が溢れています。そしてその価格はどんどん下がってきています。セールが行われる度に「安い服はお得! 買わないと!」と私たちは焦りすら持ってしまいます。企業はどんどん服の価格を下げます。その結果が低賃金労働や劣悪な労働環境、地球環境に負荷がかかる生産に繋がっているのです。さらに「安かったから買ったけど、もう飽きたし捨ててしまおう」と私たちも服を廃棄するスピードが上がっています。悪循環は価格だけではありません。企業は価格競争や同業他社の競争に勝つために新作の数や色を増やして過剰に服を生産します。中国発祥のブランド・SHEINでは毎日最大6,000枚もの新商品が発売されています。人間の脳は、心理学的にも新しいモノに惹かれるように出来ています。これにより私たち消費者の消費スピードが上がっていき、それに伴い廃棄するスピードも上がっています。このラナ・プラザ崩壊事故が起きてから10年が経った今でもこういった悪循環は止まることなく加速しています。この問題は企業だけでなく、消費者である私たちの意識の変化も大きく影響しているということを忘れないでください

確かに、普段私たちは安い服を求めてしまっている。けど誰もそれが地球環境に負荷をかけたり、安価な労働を強いていることに繋がっている、ということまで考えていなかったかもしれない。

02: 見て見ぬふりをしないで

このメッセージは実は今回のイベントの裏テーマで、このメッセージを裏テーマにしたのは服を買っておしゃれを楽しんで、それで終わりではなくて、その先を知ってもらう。そして行動を起こすきっかけを作りたいと思ったから。もう1つの理由は、私はシサム工房でアパレルの仕事をしていて、これは自分自身への教訓でもあります。フェアトレードの服を売っているので、私がたくさん服を売ることによって作り手の暮らしを支えることが出来る一方で、この服は大切に使われるのか、クローゼットに眠ったままにならないか、何より服の大量消費に加担してしまっているのではないか、そんな葛藤を胸に日々働いています。アパレル業界は、世界第2位の地球汚染産業と言われています。生産する時から廃棄する時まで必ず地球環境にダメージを与えてしまう、そんなアパレルの仕事に自分が携わっているのだから私は服を売るだけで終わってはいけない。私は服を売るのが仕事なのではなくて、どんな人が作っているのか、服の裏側を伝えるのが私の仕事だと思っています。1人の人にたくさんではなく、たくさんの人にお気に入りの1着を選んでもらう。そのために服の裏側のストーリーを伝えたり、服を手放した先も地球に優しい方法を選んでもらうために、日々伝え続けています

お客様に服を売っている仕事をしているからこそ、感じる葛藤。でも、ARISAさんが言うように必ずしも店舗スタッフの仕事は「服を売ること」だけ、が仕事ではない。その服に込められた物語をちゃんとお客様に伝えることが一番重要な役割なのではないか。そして、物語を伝えるだけでなく、どうすればその服を長く着こなせるか、どうすれば愛着を持ってもらえるか、そしてもし服を手放すとするならばその時はどうすれば良いのか、ARISAさんは服を買う「今」ではなく、その「先」を見て、お客様と日々接している。

とは言っても、やっぱり普段の業務の中で伝えるのには限界があるので、今回のようにイベントを通じてメッセージを伝えようと思いました。もしかしたら私たちが、手放した服も途上国に輸出され破棄されているかもしれない。この現実を見て見ぬふりをせずに、地球や私たちの未来にとってより良い選択をしてみてください。私たちがどの服を選んで、どのように手放すのか。それを考えるだけでも地球環境や私たちの未来を良くすることが出来ます

03: 私たちに出来ること

ではこの問題を解決するために、私たちに何が出来るのでしょう。皆さんに質問ですが、何度でも着たいと思う服はありますか? なぜ、この質問をしたかというと、私は服の廃棄問題を解決するために一番より良い選択は今持っている服を大切に着ること、だと思っているからです。この方法は誰にでも出来て、今日からでも始められる地球に優しいアクションです。そして、これから新しく買う服は出来るだけ地球環境に優しい、作り手に配慮して作られたサステナブルな服を選ぶことで大量生産/大量消費の社会を止めることが出来るかもしれません。では何度でも着たい服に出会える方法、今ある服をもっと着たい服に変える方法について話していきます

まずはぜひ、家に帰ったらクローゼットの服と睨めっこをしてほしいんですが、

STEP

好きなものはとっておく。
サステナブルな服じゃないからと言って、全て処分しなくてもOK
何度でも着たい服か? 見つめ直す

STEP

手放すべきアイテムを選ぶ。
手放す時は一番どうすれば地球環境に優しいか、も考える

STEP

新しく買うものは、サステナブルな服を選ぶ。

今説明したSTEPで、残すと決めた服をもっと着たい服に変える方法について説明します。好きな服は使用頻度が高く、劣化も早いです。例えば体型が変わってサイズアウトしてしまった、汚れてしまった、あとはデザインは好きだけど色が飽きてしまった、などと感じる時があると思います。そんな時に服を蘇らせられる方法があります。まずはリメイク。今回持ってきた服があるんですけど、これは元々は私のお父さんやお母さんが履いていたデニムと、私が着ていたデニムのシャツを自分で継ぎ接ぎして作ったスカートです。結構時間はかかったんですけど、時間をかけた分、本当に凄くお気に入りの1着になっています

次は、染めですね。汚れてしまったり、飽きてしまった服を蘇らせる一番手っ取り早い方法です。日本には草木染であったり、藍染、黒染めなど方法が沢山あります。私も汚れてしまったTシャツを柚子で染めたことがあるんですけど、淡いオレンジ色になって新しい服を手にした時のような嬉しさがありました。そして次に、ダーニング。聞き馴染みのない方が多いと思うんですけど、最近じわじわと流行り出している言葉で、穴が空いてしまったりシミが出来てしまった服に刺繍をすることです。穴が空いてしまったところだけではなく、その周りにもあえて刺繍を施してデザインっぽくするリメイク方法です。私も自身のお気に入りの靴を頑張って縫い縫いして、更にお気に入りの一足になりました。これらの方法は自分で手を加えることで愛着が湧いて、手放すはずだった服のライフサイクルを伸ばすことが出来ます

なるほど。確かにそうかもしれない。自分が手をくわえたことによって、服にさらに愛着が湧く。そうすると不思議なことに、その服を捨てづらくなる。むしろどうやったらもっと長く着こなせるだろう、と考えるようになる。

けれど、「そんな時間ないよ」「難しいそう」と思われる方いらっしゃると思うんですけど、お気に入りの服の劣化を抑える簡単な方法があります。実はあまり知られていないんですけど、洗濯を気を付けることで服はもっと長持ちします。洗濯というのは、摩擦だったり縮み、色褪せ、破れの大きな原因の1つです。日本人は毎日お風呂に入るほど清潔好き。その習慣が相まって、欧米諸国に比べて服を洗い過ぎている傾向があるそうで、洗濯の回数が多いと当然ながら服に与えるダメージが増えてしまいます。そんな服へのダメージを減らすためには、冷水を使用して摩擦の少ない手洗いモードなどで洗濯する。干す時は色褪せを防ぐために、裏返して天日干し。太陽の紫外線は漂白と同じくらいの殺菌効果があると言われています。なのでこの干し方をすれば漂白剤も必要ありません。特に洗濯の回数を減らすことは服へのダメージを最小限に抑えることが出来ます。汗をかかない冬のニットなどはワンシーズンに一度くらいの洗濯でも大丈夫です

  (写真撮影:FTSL編集部 konchan)

続いて、手放すと決めた服は譲ったり寄付したりして、循環させてください。あなたが手放した服が次に手に取った人の着たい服になるかもしれません。手放す服で状態が良いもの、その中でもブランド物など価値があるものはセカンドショップで売る。または服の交換会などのイベントで交換するのもありです。服の交換会というのは調べて頂ければ出てくると思うんですけど、ルールに従って交換したい服を各々持ち込んで他の人が持ち込んだ服と交換する、というものです。ただ、服の交換会に参加したり、寄付をしたりする時に心に留めて置いて欲しいことがります。それは、その先にはその服を着る人たちが居る、ということ。服の交換会にボランティアで参加した時に驚いたのが、穴あきやシミがある服、猫の毛がそのまま付いた服などが持ち込まれていたということ。非常に残念に感じました。持ち込むときは必ず穴あきや汚れを確認し、洗濯する。大切な人に譲る時と同じ気持ちで持ち込むようにしてください

手放す服が大量にあるときは、寄付するのも1つの手だと思うのですが、寄付する時もまた注意が必要です。実は古着寄付の裏側にも沢山問題があります。私たちが寄付したものは貧しいと言われる地域に輸出されます。そこではゴミ処分場などの施設が不十分なことが多いので、大量に届いた衣類を処分することが出来ません。その結果、焼却・埋め立てされて環境を害している可能性があります。また海にまで放出された古着は海底に大量のマイクロプラスチックという微粒子のプラスティックを蓄積させるなど海洋汚染の原因にもなっています。それから、寄付先のニーズに合っていない服が送られているケースもあります。例えば気温の高い地域にコートが送られたり、難民に迷彩の服が届いたり、などなど。私たちが良かれと思って寄付した服も、実は必要な人の元に届いていないこともあるようです。こういった現状を無視して、寄付先に何の配慮もせずに寄付という名目で必要以上に衣類を送りつける団体も多い一方で、難民キャンプなど本当に服を必要としている人たちに服をきちんと届けている団体もあります。その見分け方は、ホームページなどで寄付した服の使い道をきちんと報告書にまとめて発信しているかどうか。きちんと報告書を発信している団体は透明性が高く、信頼できる団体であると言えます

自己満足、と言っては何だが、服を寄付した=良いことをした、と思うのは少し違うのかもしれない。と、ARISAさんの話を聞きながらに感じた。確かに必要なものを必要な数だけ届けるのが一番理想的だが、ARISAさんの話の中にもあったように必要でないものが必要ではない地域や時期に大量に送り付けられているという事実。まさに「寄付」という名の「一方的な押し付け」であり、もはや「ゴミを押し付けている」と言っても過言ではない。だからこそ、ARISAさんの言う通り、もし寄付をしたいと言うのであればHPなどできちんと寄付団体について調べ、考え、行動しなければならない。寄付したら、あとは寄付団体がうまくやってくれる。そんな安易な考えは改めなくてはいけない。

また譲ることが出来ないほどに着古した服は、自治体の指示に従って処分するかアパレルショップなどの回収ボックスに持ち込みましょう。リサイクルのために持ち込まれた衣類は人の手によって、まだ着れるものと着れないものと分別され、着れないものは服をバラして布の素材の状態にして工業用の雑巾や車の装備品などにリサイクルされるものもあります。捨てるという選択肢だけでなく、このように循環させるという方法もあるのです。さらにリユースされる衣類の量にも大きな変化があります。現在は手放された服のうち、約20%しかフリマアプリや回収などを通して古着としてリユースされていません。しかし、私たちが1年間で1回も着ていない服を譲ったり回収に出したりして循環させると、古着としてリユースされる衣類は約10倍になると言われています。日常的に着るTシャツなどの服は、100回から300回ほど洗濯したとしても3年間は問題なく着ることが出来ます。服のライフサイクルって実は意外と、とても長いんです。これからは捨てる前に「まだ循環できる方法はないかな?」と、一度立ち止まって考えてみてください

04: 「サステナブルな服を買う」という選択

ここまでは、今既に持っている服を1日でも長く着る方法について話してきました。次に、新しく買う服についてお話しさせて頂きます。その中の1つの選択肢としてサステナブルな服を買う、という選択肢があります。サステナブルな服は丈夫で長持ちし、長く着たくなる秘密が沢山あります。これから迎える新しい服をサステナブルなものにすることで、大量生産/大量消費のシステムを止めるほどの大きな変化をもたらすことが出来ます。サステナブルな服とは、生産から廃棄に至るまでのプロセスが持続可能であることを目指した服のことで、その多くは天然素材100%で生産されています。何故サステナブルな服は天然素材が用いられることが多いのか、それは天然素材が地球に優しい循環型の素材だからです。ちなみに、化学繊維と天然素材を比べたときに、価格で言えば化学繊維の方が安いです。なので、企業側はコストダウンのために化学繊維を使う傾向があり、天然素材で作られた服に比べると品質が低いことも、また地球環境や作り手への配慮が欠けた商品である可能性もあります。一方、天然素材の服は肌触りが良いだけでなく、肌と服の間に適度な空気や水分を含むため、肌の乾燥を防ぐことが出来ます。なので夏はサラッとして冬は静電気が起きづらく、私たちにとってもメリットが多い服と言えます。そして着込んでいくごとに繊維が柔らかくなっていくことで肌触りが心地良くなり、素材そのものが持つ味わいも出てきます

また1番は、地球環境にとっての大きなメリットがあります。これは私が自宅のベランダで行った生分解性の実験(※下部、写真を参照)です。生分解性とは、物質が微生物などの作用により分解することを言います。順番にポリエステル、オーガニックコットン、麻の布切れを適度に水をやってほったらかしにしておいたものなんですけど、どれが一番分解が進むのかを確かめるべく実験してみました。実験開始して8日経った段階ではいずれも大した変化はありませんでした。20日くらい経った頃にだんだん麻とオーガニックコットンがほつれやすくなり、最終的に一昨日くらいに掘り起こしたものを展示会場にも置いているんですけど、64日経った段階で麻は繊維が壊れていたのに対し、ポリエステルは何の変化もありませんでした。実験期間が短かったり、微生物の数がもっと多ければもっと分解が進んでいたと思うので、はっきりとした結果がお伝えできなかったんですけど、実は綿は1年、麻は半年で土に還ると言われています。ちなみにポリエステルは1年経っても何の変化も起きません。ポリエステルのような化学繊維は、土に還るまでなんと約200年かかると言われています

  (写真撮影:FTSL編集部 konchan)

発展途上国の服が放棄された山にある服は、もしかしたらこういったポリエステルなどの化学繊維で作られた服かもしれません。もしそうだとしたら、あの服の山は200年経たないと地球から無くなることはありません。このような地球環境への危機感を持った人たちによって、近年では土に還る素材を使った服を作るブランドが多く誕生しています。私にとってはユニーク過ぎて、ワクワクが止まらないんですけど、まずKENTというブランドはロサンゼルス発のブランドで、約90日間で土に還るオーガニックコットン100%の下着を開発しています。下着なので衛生上の問題で、リサイクルだったりリユースが難しいので、土に還る下着として今注目されています。次に、イギリス発のVollebakというブランドですがこちらは12週間で土に還るTシャツを開発しています。素材は何と、木と藻類。先ほどの下着同様、堆肥に出来る服です。最後に、日本のSyncs.Earthというブランド。ここは和紙の生地とコットンの縫製糸を使って服が作られています。和紙と聞くと弱いイメージがあると思うんですけど、実は強度が高くて吸水性と速乾性にも優れていて、サラッとした質感が続くそうです。あとは生産過程で発生した端切れも回収して再利用するという徹底ぶり。さらにここのブランドの面白いところは、購入するときに通常購入と循環購入と選ぶことが出来ます。循環購入というサービスはその服を着なくなったら服を返却して、ブランドの農園で土に分解するという仕組みになっています。循環購入では少し安く購入できる仕組みになっているそうで、服を所有するという考えから着る期間だけ服を借りるという考えを提案しています。このように自然と循環させるための仕組みというのは注目が高くて、どんどん開発が進んでいます

恥ずかしながら、いずれも初めて耳にするブランドだった。化学の発展と共に、「そんな素材が誕生しているのか!」と驚いた。ARISAさんの言う通り、きっとこれからも同様のブランドが多く生まれてくるだろう。そして批判並びに攻撃をする訳ではないが、今流行りのSHINEなどを始めとするファストファッション業界はきっとこの先そう長く続かないだろう。循環型ファッションの波は今後必ず訪れる。地球環境に配慮してない服を着ている人はナンセンスだ、ダサい、もしかしたらそんな風に人々の思考も変化するかもしれない。そうなれば、ファストファッションの需要は急降下し、循環型ファッションがトレンドとなり、主流となる。我々の選択が自分たちの住む地球を変えていく。身近すぎて気付きにくいが、服の選択を変えることで私たちは地球環境を守ることが出来るのだ。

ちなみに、化学繊維は洗濯をするたびにマイクロプラスティックというものが出ます。その水は海へと流れ出て、それを魚が食べます。その後私たちがその魚を食べる。ということで、私たちの体内にも当然取り込まれることになりますが、平均的に1週間でクレジットカード1枚分が普通に私たちの体内に流れ込んでいると言われています。新しい服を買うときに天然素材の服を選ぶだけで、地球環境だけでなくて私たちの身体だったり、私たちの将来まで大きな効果をもたらすと言えます

今ある資源を再利用して新たな価値を生み出すという考え方もあります。それがアップサイクルです。リサイクルというのは、使わなくなったものを再利用すること。一方でアップサイクルは、使わなくなったものからもとより価値の高いものを生み出すことを言います。廃棄されるはずだったものが新しく蘇るアップサイクルのアイテムは、アイデアの宝庫です。例えば、Love&senseというフェアトレードの専門店で販売されているプルタブバッグ。プルタブは缶ビールや缶コーヒーなどの缶のつまみの部分なんですけど、そんなプルタブを素材として作られた唯一無二のバッグです。凄く軽くて、バッグだったりブレスレットなども展開されているのですが、このバッグは女優の二階堂ふみちゃんも愛用されているとか。アップサイクル商品の魅力は、循環型のものづくりで廃棄を最小限に抑えることが出来ること。さらに元々使われていたものをそのまま再利用しているものも多いので、経年変化もそれぞれで1点もののアイテムが多いということ。1着を長く着るための工夫が沢山詰まっていること、などです

そして私が一番お勧めしたいのが、ストーリーがある服を着ること。誰がどこで作ったものかを知ることで、その服の裏側のストーリーも纏って身につけている感覚になります。人間はこのアイテムにかかったエネルギーが強ければ強いほど愛着が湧く傾向があるそうです。例えば正規品よりは、自分で手作りした物の方が愛着が湧きませんか? ものづくりのストーリーや手仕事を感じると、着る時は勿論手放そうとする時にも愛着が湧いて、どうにか工夫して長く着たくなります。ストーリーがある服として、私がお勧めしたいのがフェアトレードの服です。フェアトレードの服を買うことは作り手の暮らしを支えることに繋がります。お買い物のときに作り手と繋がることで、普通の服を買うときには感じない達成感や充実感を得ることが出来ます。それが体験として残るので、フェアトレードの服は長く大切に着たいという気持ちになる服と言えます。ですが、「フェアトレードの服は他の一般の服と比べて価格が高い」という声をよく聞きます。フェアトレードのものづくりというのは、作り手に適正な賃金を支払う仕組みになっています。本来はその仕組みが当たり前になるべきなので、この価格は当たり前なんですが、安い価格の服が溢れているため、どうしても価格の高さに違和感を感じてしまいます。また「フェアトレードの服を買ってみたいけど、どうしても価格が壁になってしまう」という意見もあると思います。私も少しずつ、フェアトレードの服が増えてきていますが、そんなに頻繁に買ってしまっていると破綻してしまいます。なので私はフェアトレードの服を買うときに、1回の支払いは高いけれど、長く着ることを見越して、将来への投資だと思って買うようにしています。長く着ることをきちんと考えることで、1着にかけるお金は高くなるけれど、全体として服を買う頻度が減ることで、服にかけるお金は少なくなりました

実は私も服だけに限らず、高い買い物ほど損はない、と考えている。安いものには安いなりの理由がある。1つは間違いなく、質の状態。安い素材を使うから安くなっている、という事は言い換えるのであれば直ぐに壊れてしまう可能性が高いという事。それに機能性も十分ではない。つまりは長く使いたくても、直ぐに壊れてしまって長く使うことが出来ないのだ。そうなると再び購入しなければならない。いくら安いと言っても、何度も買い替えているようでは結局はブランド物と同等の値段を払うことになっていく。それに買いに行く時間や手間も考えるとやはり一概にお得とは言えない。値札だけを見るのではなく、この先を見越して購入する。ARISAさんの言う通り、長い目で見るということが何よりも大事なのかもしれない。

フェアトレードの服は、長い目で見れば普通の服を大量に買うこととあまり変わらないかもしれません。CPWという指標があります。これはCost per Wear という計算方法があります。これは服の価格を着た回数で割ることで、着ている期間のその服の値段を導き出すことが出来る、というもの。例えば3,000円の服。「安かったから買ったけど、デザインに飽きたし素材が悪くて直ぐに傷んでしまった。安かったし捨てちゃおう」と、たった1年間に10回しか着なかった、とします。すると、その服の着ている期間の値段は300円、一方で10,000円のフェアトレードの服だと、「作り手の話も聞いて凄く共感したし、素材も丈夫で何度洗ってもヘタレない。生地も柔らかくなって、着心地もどんどん良くなってきた。こだわりも詰まっているし、長く着れることを見越してしっかり選んで買った物だし、もう少し着たいな」と、3年間で10回ずつ、合計30回着たとします。するとCPWは340円になります。金額はあまり変わりませんが、さらに長く着ることでもっともっと安くなってきます。こういったお洋服が増えると、また着たいと思えるお洋服が増えるので服を買う頻度も減ります。安い服を短期間に沢山買うよりも、高価な服を長期間着ることを見越して買い物をすると意外と経済的だったりするのです。ぜひ、選択肢の1つとして、考えてみてください

社員だから、告知として伝えたいという訳ではなく、知ってほしいから伝える、私の大好きなシサム工房のスローガンなんですけど、”what you buy is what you vote” お買い物はどんな社会に1票を投じるか、ということ。私たちの選択というのは、私たちの未来に必ず繋がってきます。これから選ぶ服は、着て楽しで終わりじゃなくて、その先に繋がっていく循環する服を選んでみてください。服の廃棄の問題を解決するためには、1人の力では足りません。多くの方の協力が必要です。ここに集まってくださった皆様には、どうかこの服の廃棄の現実を見て見ぬふりをせずに、服を手放したその後について考えるきっかけになれば嬉しいです。もっともサステナブルな服とは、今すでに持っている服。そして、これから迎える何度でも着たいと思える服のこと。みなさん、魅力でいっぱいの循環型のおしゃれを楽しんでください

エシカルジャーナリスト、ARISAさんはこれからも発信を続けていく。人に地球に優しい、循環型の社会を目指して、より多くの人に「サステナブルな服を買う」という選択肢の可能性を、その先の未来を伝え続ける。

スピーカー出演:
ARISA さん

シサム工房 店舗販売スタッフ
エシカルジャーナリスト
FAIR TRADE SHOP L!ST 運営スタッフ

 

@取材:FTSL編集部 Konchan