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“ミッションのあるエシカル” とは――

 

 

 近年、ESG投資や国連の持続可能な開発目標(SDGs)に向けたCSR活動など、地球や社会の問題解決においてビジネスの力や企業の役割が世界中でますます注目されている。環境や社会に良い企業の証となる BCorp認証 を中心としたムーブメントなども起こっている。
 企業同士がそれぞれの強みや経験を活かして協業することで、よりクリエイティブかつ効率的で多様な活動が生まれている事例も多く見られるようになった。そうした事例の一つともいえるのが「売上の100%が寄付になるフェアトレードコーヒー」だ。
今回Fair Trade Shop L!stではこの寄付型コーヒー販売ブランド「Warm Hearts Coffee Club (ウォームハーツコーヒークラブ)」店長の山田さんにインタビューをし、この活動が立ち上がった経緯を伺うと共に、エシカルビジネスの今後について伺った。また、山田さんご自身の興味深いキャリアパスも追った【2023/07】

 

01: 売上の100%が寄付になるフェアトレードコーヒー

NPO法人せいぼが運営するウォームハーツコーヒーは「100%がアフリカの給食支援に寄付されるサステナブルコーヒー」だ。
そう聞いたら、「え、どういう仕組み?」と一瞬疑問に思うはず。
その仕組みは、複数企業との協力のもと成り立っており、このコーヒーブランドの大きな特徴の一つだ。
フェアトレードコーヒー生豆の費用はアタカ通商株式会社というコーヒー豆輸入卸売業の日本企業が支援している。さらに、焙煎から配送までの費用はLIVE COFFEEという焙煎所による協力のもと特別価格となっており、その費用はモベルコミュニケーションズというモバイルサービス企業グループが支援している。

マラウィで作られる高品質なコーヒー豆は、国際フェアトレード認証も取得しており、スペシャリティコーヒーとして仕入れ・焙煎されている。先述の通り、原価は複数企業によって賄われており、売上の100%がマラウィの学校給食プログラムへの寄付になる。フェアトレード生産者にも、コーヒーを飲む人にも、地球環境にも、そして寄付が届く人々にも、恩恵が届く素晴らしい仕組みだ。寄付の仕組みの透明性やコーヒー豆のトレーサビリティもしっかりしている。
(マラウィにあるウォームハーツコーヒーの生産地についての詳細はこちら:https://www.charity-coffee.jp/about/  )

02: モバイル通信事業とチャリティを根幹におく英モベル社

店長の山田さんは、現在イギリスに本社を持つモベルコミュニケーションズ(以下、モベル社)の社員として仕事しながら、ウォームハーツコーヒークラブの店長を務めている。1989年創立のモベル社は、モバイルサービスや海外携帯電話・SIMカードの販売等の事業を行う傍ら、企業利益を用いて貧困解決のためのチャリティ活動を行なっている。ホームページの企業説明文には「Mobellはモバイル通信ブランドと複数のチャリティから成る企業グループ」だと述べており、チャリティ活動を企業の根幹として掲げているのが分かる。
モベル社の代表取締役社長Anthony J. Smith(トニー・スミス)氏がマラウィを訪れ始めたのは2000年頃から。現地の女性たちに「今、どんな支援が必要ですか」という質問をしたところ、「若い人たちの仕事が必要」という回答をもらったことから、「ビジネスを使って現地の若い世代のために何かしたい」と考えるようになったという
(※マラウィでは人口の半分以上を24歳未満の若者が占める)

まず、2007年にマラウィのチリモニという地域に職業訓練センターBeehive(ビーハイブ)を設けた。Beehiveを拠点にレンタル事業を応用したビジネス(重機、携帯電話、ミシンなど)や、本の販売など、現在は約9つのソーシャルビジネス事業を展開するに至っている。雇用を生むと共に、利益を現地の子どもたちの保育にも使用している。2022年にはMary Queen of Peace Education Campusという大規模な教育キャンパスをBeehiveに併設し、運営を開始。教育と職業をつなげる場となっている。支援と共に、現地の人々との信頼やつながりを徐々に積み重ねてきた。
一方、マラウィでは特に5歳未満の乳幼児が栄養失調で苦しんでおり、2015年からは国際的な飢餓の問題に立ち向かうため、マラウィの教育施設や保育施設に対して学校給食支援プログラムをスタートさせた。

  学校給食プログラムの様子 (写真提供:Warm Hearts Coffee Club 公式サイトより)

03: 日本企業との協業によるチャリティの最大化

コーヒー事業が始まったきっかけは、2015年のマラウィでの大洪水。10万人以上が住居を失い、道路やインフラ、農家の作物や家畜も大打撃を受けた。現地の子どもたちへ給食プログラムを絶やさず、さらなる支援を行うため、新たな事業としてコーヒー事業が構想された。
時を同じくして、コーヒー豆の輸入卸売業を行うアタカ通商株式会社も、社会のためになる事業をしたいという考えを持っていたようだ。「アタカ通商さんは、知名度がまだ低いシングルオリジン(特定の原産地)のコーヒーを開拓し、農家さんと直接フェアな取引を行いながら生産者や環境に配慮した形で世の中に出していくことで、社会に貢献しようとされていたのだと思います」と山田さん。
こうしてウォームハーツコーヒーとアタカ通商株式会社のミッションがつながり、密な協力体制のもと、2017年からプロジェクトが始まった。

現在はマラウィコーヒーの100g入り袋とドリップパックを、オンラインショップにて全国配送している。また、8都道府県の私立学校、および東京の企業や店舗にて代理販売されている。オンラインショップでは100g入り袋が月ごとにおよそ200袋売れ、2022年の年間コーヒー売り上げで学校給食にして約60万食分をマラウィに寄付することができた。
コーヒーによる寄付は、効率がいいと考えています。コーヒーの風味からマラウイに関心を持って頂き、寄付を頂いたり、純粋にコーヒーのおいしさから購入をして頂ける方がいらっしゃるからです」と山田さんは話す。

  世界最貧国のひとつマラウイでの給食は1食およそ15円。1,000円のコーヒー豆を購入すると1,000円が給食支援活動に寄付され、65人の子どもたちの1日分の給食になるという
(写真提供:Warm Hearts Coffee Club 公式サイトより)

04: 店長山田さんのユニークなキャリアパス

コーヒーについて山田さんのお話を伺ううち、イギリスの外資企業で仕事しながら日本のNPO法人として寄付型コーヒー販売を行う山田さんご自身のキャリアパスが非常に興味深く、詳細を伺ってみた。

山田さんは、大学時代に4年間英文学科で学び、後に神学部で2年間学んだ。「その頃はあまり就職のことは考えていなくて、とにかく勉強や新しいことを学ぶことは好きだったので成績はそれなりに良かったんです。人と話すことも好きでした。カトリック系の家庭で育ったので小学生の時からボランティア活動を身近に見ていて、自分は誰かのために何かするならもっと仕事として大きく形になることをしたいと思いました。だから最初は、神父さんになろうと思って神学部の実務コースに進みました」と山田さん。
山田さんがモベル社の代表取締役社長トニー氏と出会ったのはその頃。
モベルの社員が私の大学に講演しにきていて、私がたまたま前方に座っていて英語も話せたので、後で呼び出されて少し通訳をしたんです。そうしたら日本の事務所にまで彼と行くことになり、その場になんとトニーがいました。そして急に廊下で “君、マラウィに行きたいか?”と聞かれて(笑)。トニーはちょうど日本でSIM事業の営業を探していて、同時にチャリティ活動もやりたかったので、私がぴったりだと思ったようです。手渡されたトニーの名刺の裏に“Doing Charity by Doing Business (ビジネスでチャリティをする) ” と書かれていて、私もこれがやりたかったことだ!と感じてパーツが繋がりました」と山田さんは話す。
山田さんは2017年にモベル社に入社し、現在7年目になる。日本ではモベル社のパートナーであるNPO法人せいぼのスタッフも兼任し、アフリカと日本への学校給食寄付事業やウォームハーツコーヒーのプロジェクトを率いている。

  マラウイの方と山田さん (写真提供:Warm Hearts Coffee Club 公式サイトより)

05: 今後の「エシカル」とソーシャルビジネス

画期的なソーシャルビジネスの仕組みを他企業と共に作り上げてきた山田さん。今後世の中のエシカル商品やソーシャルビジネスの発展についてどのようにみているだろうか。

エシカルとか、フェアトレードという言葉が最近広まっていて、内容がぼやけてきていると思うんです。そうした言葉自体が広まることはムーブメントの広まりとしていい側面もある一方で、その内容がちゃんと社会に定着するためには、もっと自由に “これがエシカルだ!”と言えたほうがいいんじゃんないかと思うんです。これからは例えば学生たちも、もっと自分たちの価値観を明確に発信していって、プロジェクトを形にして、そこに共感した人がお金を出すという仕組みも応援していくべきだと思っています。その方が、エシカルをぼやけた状態として発信するよりずっといい」と山田さんは話す。

高校や大学など教育現場での出張授業の際にもこの想いは表れており、学生たちが国際問題の解決方法について自ら考えるきっかけを作っている。例えば、津田塾の学生が主体の団体に向けた授業では、1年生の授業では自分たちで「エシカル」の定義を言葉にできるよう学びを深め、3年生の授業では政府に提言するにはどのように表現したらいいかを考えていく学生までいるようだ。また、高校生に向けては、チャリティコーヒーのパッケージラベルに自分たちの考えるメッセージを載せて作ってみるという授業を行ったそうだ。

  教育現場での訪問授業の様子 (写真提供:Warm Hearts Coffee Club 公式サイトより)

「私たちNPO法人せいぼのマラウィ学校給食プログラムも、日々の食事の提供なので学校建設などと比べると結構地味ですが、でも人間にとって不可欠なものであることを明確に発信して、共感してくれる人にサポートしてもらってきました。こうした “ミッションのあるエシカル”が横並びに増えていけばいいと思っています。そうすれば互いに批判する余地もなく、真の意味で多様性のあるムーブメントになる」と山田さん。

企業や個人がただ情報を受け取るだけでなく、それぞれの倫理観や価値観について模索し言葉や形にするプロセスを経ることで、本当の意味で他者との共感を生み、多様な問題を解決するムーブメントにつながるということか。確かにその通りだと感じた。

ウォームハーツコーヒー事業は、今後企業から多くの賛同を得てBtoB需要がますます増え、
独立したビジネスとなっていくと山田さんは予測している。これからのプロジェクトの成長や
教育現場での活躍にも注目したい。

 

インタビュー出演:
山田 真人 さん

Warm Hearts Coffee Club 店長
せいぼじゃぱん

 

@取材:FTSL編集部 Oku