×Banana Paper

イラストで伝えたい、現地の思い――

 

皆さんは、一日で紙をどれだけ使っているか考えたことがあるだろうか。日本製紙連合会のホームページには、2020年日本の国民一人当たりの紙・板紙消費量は178.4kgとあり、世界でもトップクラスとされている。そうした現状の中、”紙”へのリスペクトを込めたフェアトレードアイテムブランドkaluluwaが立ち上がった。商品はバナナペーパーを使用したアイテムのみ。ブランドを立ち上げたグラフィックデザイナー&イラストレーターの佐藤さんに、その挑戦について伺った。【2023/03】

ナチュラルで健康的な食材があふれる国「フィリピン」の魅力を伝えるブランド kaluluwa。
(抜粋:kaluluwa instagramより)

フィリピンの豊かな自然は、わたしたちにその恵みをおすそわけしてくれる。
みんながおすそわけすれば、みんながしあわせになる。

kaluluwaはフィリピン語でsoul, spiritという意味。
フィリピンの自然の恵みによって、みんなの魂が元気になるという想いが込められています。

 

01:バナナペーパーを使ったものづくり

普段グラフィックデザイナー兼イラストレーターとして活動されている佐藤さんは、ライフワークとしてバナナペーパーを使ったしおりやステッカーなどを制作している。イラストレーターをされながら、可愛いイラストを使ったアイテムは世の中にたくさんあり、その中で埋もれてしまって差別化が難しいと感じていた佐藤さん。環境問題に配慮することで、商品にメッセージを込めている。プラスチックなど資源をたくさん使うことも避け、フェアトレード認証を取得したバナナペーパーを使った紙製品だけと決めた。
バナナペーパーは、普通の紙と比べてちょっとザラザラとした手触りだという。ゴワゴワした感じを抑えるために、バナナ繊維と古紙を混ぜたものが多いのだとか。古紙100%を使うのと比べて環境や社会にとって良いのはどういう点なのだろうか。

バナナは、実がなると一旦茎とともに全部一年に一回切り落とす必要があるんです。そうすることで、次も実をつけるようになります。一年に一度捨てられる部分を利用して、紙の繊維が作られています。今私が使っているザンビア製のバナナペーパーは、日本の紙漉き技術を使っているんです。質を高めるのに恐らくかなり努力をしていると思います。私としては特にフェアトレード認証ラベルをとっていることが重要で、ラベルを取得するにあたって行われる努力と透明性に信頼を置いています

一方で、バナナペーパーを使うことの難しさにも直面している。

SDGsに向けたアクションが社会に浸透する中、バナナペーパーを取り扱う印刷会社は、けっこうたくさんあります。しかし、なかなか製品としてはできるものが限定されていて、たいてい名刺とポストカードくらい。本当はマスキングテープとかを作りたいけど、現在私がバナナペーパーで作れているのは、ポストカード、しおり、ステッカー、メッセージカード、A4ポスターです

さらに、コストの問題も大きいという。

バナナペーパーは通常の紙の値段の2倍以上します。逆に、普通の紙が安すぎるというのもあるのかもしれませんね。SDGsの知名度が上がる中、印刷業界も厳しいので、環境配慮などを意識しないと会社として生き残っていけないと思います。ただ、バナナペーパーを取り扱っているところを調べて問い合わせても、”昔やってたけど今はやっていない”と言われることもありました。恐らくコストが原因で諦めたのかなと思わせるケースもよく見かけます。バナナペーパーを使うのは、だからこその対抗心もあります(笑) みんなが印刷に使うことによって普及していくことで、コストも下がっていくことを願っています

 

  (写真提供:kaluluwa)

02:日本で感じた 紙に対するリスペクトのなさ

佐藤さんがそこまでして紙製品にこだわるのは、長い海外暮らしの後に日本に帰国し、紙が未だ大量消費されている状況にショックを受けたからだという。

アラブ首長国連邦のドバイに10年住み、客室乗務員として仕事をしていました。その時にはすでにペーパーレス化が進んでいて、紙を使うことがほとんどなかったんです。書類は全てPDFですし、社員にはタブレットも支給されていました。旅先のレストランでは紙のメニューがなく、QRコードから電子メニューが見られる所もよくありました。だから、日本に帰ってきて紙がとにかく多いのに驚きました。ポストに入っているチラシだったり、ティッシュをすごく使うことだったり。日本人の紙に対する意識ってまだ少ないと思うんです。安いからか、紙にリスペクトがない(笑) 脱プラスチックも各所で進んではいるけれど、大量消費のライフスタイルを変えない限り、結局木を大量に消費するだけだと思います

趣味で絵をよく描いていた佐藤さんは、帰国後、学びを深めるために京都芸術大学へ。
卒業制作で世界の現状を知る課題に取り組んだことや、その後にものづくりを始めて感じた経験が、今の活動に繋がっている。

初めて印刷会社を使ってみた際には、大きなロットでしか注文できないことを知り、作ったチラシも期限が切れたものは簡単に捨てられてしまうことに切なさを覚えたという。そのことがさらに、佐藤さんの想いを強くさせた。

• 紙一枚まで無駄にしないこと
• コストはかかるけどフェアトレード認証を取得したサステナブルなバナナペーパーを使うこと

 

03:フィリピンへの想いを表現

佐藤さんにはフィリピンのバギオ出身のパートナーがおり、フィリピンには縁と愛着があることで、商品のブランド名はタガログ語で「soul, spirit」を意味する” kaluluwa (カルルワ)“とした。

フィリピンの自然の恵みによって、みんなの魂が元気になるという想いが込められています。

マスコットキャラクターは、なんとも愛らしいメガネザルだ。

 フィリピン語でターシャっていう手のひらサイズのメガネザルなんです。ボホール島などの保護区で過ごしている絶滅危惧種で、全体で5千匹くらいしかいません。ナショナルアニマルとして、フィリピンのお札の裏に印刷されたりもしているんです。15年前に私がフィリピンを訪れた際は手のひらに乗せられたけど、今はなかなか触れられません。人の手に触れられるストレスで死んでしまうケースもあったからだそうです。そうした人間の影響なども含めて、人々に知ってもらいたいという思いを込めました

佐藤さんは、近々フィリピンに移住を予定している。今後の活動展開について伺った。

フィリピンの風景を絵として描いてもいるので、また現地のいろんな景色を見て、いろんなフィリピンの良さを伝えたいです。
ごみ山や犯罪者など、フィリピンのネガティブなイメージが偏って伝わってしまっているように思えてなりません。日本にはまだあまり知られていない食材や美しい自然の景色をイラストを通してたくさん伝えたいですね

 

(写真提供:kaluluwa)

04:これからの時代の人に手に取ってほしい

佐藤さんがつくった商品は、マルシェなどの出店先でして購入することができる。商品の背景ストーリーをお客様に自ら語り、知ってもらった上で買ってほしいからだという。

ー マルシェで商品を手に取られる方の反応は?

まず、フェアトレードって何?っていう方が多いですね。でも、例えばフェアトレードコーヒーを扱うカフェなどで販売したときは、お客様のフェアトレードに対する認知度が高かったように思います。認知度に差があるので、きちんと説明できるようになってないといけないと感じています。

あと、販売してみて感じたことは、ものはそう簡単には売れないということです。でも学生さんなど、これからの時代の人に手に取ってほしいから、なるべく高くなく、ワンコインで買えるものを心がけています

一歩ずつ、地道に考えを巡らせながら、素敵なイラストやデザインの力を使って前に進む佐藤さんを、これからも応援したい。

インタビュー出演:
佐藤 未奈さん

フィリピン産フェアトレードshop
kaluluwa 店主

 

@取材:FTSL編集部 Oku/Hosoya