×chocolate
バレンタイン特集も兼ねて、お届け。
公式ホームページを 2021年 1月にリニューアルオープンさせ、スタッフ共々やっと一息ついた 2月。
記念すべきコラム記事第 1号は世界中を甘い香りで包み込む、チョコレートにフォーカスを当ててみることにした。【2021/02】
01:果物と同じ。旬なお菓子だからこそ
今回我々が取材を申し込んだのは、フェアトレード界隈では「それならもうあの人しかいない!」と誰もが認めるチョコ LOVER の牛嶋さん。
しかし、チョコ LOVER と言ってもただのチョコ好き、という訳ではない。
株式会社明治の一部門であるチョコレート検定委員会が主催している「チョコレート検定」という検定試験があり、牛嶋さんは友人・知人など自らが所属するコミュニティにチョコレートの楽しみの世界を広げる活動を行うことができるエキスパート(中級)を取得されている。平均合格率も 76.7%と決して簡単な検定試験ではない。よっぽどのチョコレート愛が無ければ取得も難しい。
福岡出身である牛嶋さんは、2018年にフェアトレードに携わる仕事を求めて京都へ。
当時、個人的な目標として簿記やファンドレイザーなど何かしらの資格取得に励んでいたそうで、「せっかくだからチョコレートを体系的に学んでみよう」と同検定を受け、一発合格。
「身近な人にチョコレートを説明する機会があったんですけど、確かにチョコレートは好きだけれどそんなに詳しくまでは知らないし、製造工程やチョコレートそのものについてちゃんと勉強して、発信できるようになりたい。そんな想いもありましたね」と牛嶋さん。
そんな牛嶋さんのスマホの待ち受け画面もカカオ豆の壁紙。ここまで来ると脱帽だ。
【左/右上】店頭に並ぶフェアトレードチョコレートを手に取る牛嶋さん【右下】冬季には店頭にフェアトレードチョコレートがずらりと並ぶ (写真撮影:FTSL編集部 konchan)
そもそもどうしてチョコレートなのか。何故そこまでチョコレートを愛するのか。
何が牛嶋さんを魅了するのか。何かきっかけとなる出来事があったのか、そんな質問に
「きっかけ、というものはなかったです。ただチョコレートは旬なもの。果物みたいなものなんです。1年中食べられるお菓子じゃない。そこに他のお菓子にはない特別な魅力を感じています」とニッコリ。
確かに毎年、年明けの一番の楽しみはバレンタインかもしれない。百貨店や町中のケーキ屋さんのショーウィンドウに並ぶ、宝石のように煌めくチョコレートは誰の心をも魅了する。不思議な力を持っている。
「ただ、毎日食べているとか、ごめんなさい、そういう訳ではないです。取材前にも勿論食べて来ましたよ、とか言えれば良かったのですが」と笑う牛嶋さん。
「けれど、こだわりはあって、食べ方も 2パターンあるんです。1つは疲れて、ああもう甘いものが食べたい〜という時。もう 1つは、チョコレートのためだけに時間を設けています。ながら食べでなく、ちゃんと向き合う時間を設けているんです。チョコレートを目で、鼻で、ちゃんと堪能して食べるんです」素晴らしい。
02:バレンタインにおススメのチョコレートとは?
そんな牛嶋さんに今回、おすすめのバレンタインチョコレートを紹介してもらうことにした。
我々も感じる酷な質問。沢山あるんですけどね〜と悩みながらも、
「1つ目は、Slow Watercafé さんのアヒチョコですね。森林農法を用いられていて、栽培から発酵、乾燥、焙煎、パッケージングまでの工程をすべてエクアドル国内で行っている点も素晴らしく、また唐辛子(アヒ)のピリッとチョコレートの甘さが相まって最高なんです。病みつきです!」と、かなりの激オシ。
【左】Slow Watercafé / アヒチョコ【右】PeopleTree / Fair trade chocolate ミルク (写真撮影:FTSL編集部 takaminn)
「2つ目は、FRAN’S CHOCOLATES さんのキャラメルとヘーゼルナッツです。とにかく本当にフェアトレードチョコレート?! と疑ってしまう程にお洒落! フェアトレードを取り扱っているブランド店が少ない中、認証ラベルまでちゃんと付いている。お土産にもピッタリのチョコレートだと思います」
「3つ目は、PeopleTree さんのミルクチョコレート。フェアトレードを知らないという人にもおススメです。引っ越しの挨拶なんかに持っていける “種まきチョコレート” というか(笑) 私も実際に挨拶に持っていきました」
それから、と最後に牛嶋さん。
「どのチョコレートでも共通して言えることなんですが、出来れば常温で保存してください。なるべく温度変化の少ないところ。常温の方が香りの際立ちも良いですし、何よりくちどけが全然違います。それから皆さん、知ってましたか? 砂糖はチョコレートに溶け込んでいるのではなく、とっても小さくすり潰されて練り込まれている状態なんです。それが急激な温度変化によってチョコレートの表面が結露してしまうと、せっかく混ざっていた砂糖が結露の水滴の中に溶け出してしまうんです……。味が劣化する訳ではありませんが、やはり作り手の考えるベストな状態で食べて欲しいですよね」
凄い、説得力が違う。
03:日本人とカカオの距離
気が付けばインタビューを始めて 1時間。本当は 1時間程で終わる予定だったが、チョコレートだけに濃厚な話が次々と飛び出してあっという間に時間が過ぎてしまった。恐るべきパワー。凄まじい魅力だ。
そんなフェアトレードチョコレートだが、10数年前などに比べると街でも目に触れる機会が増えたように思う。今ではコンビニなどでも手軽にフェアトレード認証ラベルのついた商品を購入することが出来る。一体この 10数年で何があったのだろう。種類が増えたのか、物量が増えたのか? 牛嶋さんの考える今後のフェアトレードチョコレートについて聞くと、
「まあ、なんちゃって認証商品とかも増えるかもしれませんよね。ただ、フェアトレード認証商品だけに限らずカカオに関わる全ての人にとって良い商品がもっと増えて欲しいなあと思います。チョコレートはフェアトレード認証のもの、というか将来的にフェアトレードチョコレートが “みんなが買える当たり前のもの” になっていて欲しいなと」確かに……。
そんな想いもあって、牛嶋さんはフェアトレードチョコレートの現場を自分の目で確かめるべく、フィリピンのミンダナオ島のカカオ農家に実際に足を運んでいる。訪れる前に抱いていたカカオ農家のイメージと現状。実際に現地へ飛び、
「全然違いましたね。世間のイメージというか、農家の人たちはカカオは知っていてもそこから出来るチョコレートは知らないという話がよくありますが、ミンダナオ島では現地の人、チョコレートめっちゃ食べてましたよ(笑) びっくりしました。ただ、そうは言っても現地の人たちが食べていたのは日本人がイメージするような板チョコのようなピュアなチョコレートではなく、砂糖や油脂が添加されたどちらかと言えばチョコ菓子のようなものが多く、カカオの味・風味を味わえるものでは無かったです。なので本来のカカオの美味しさを味わっていない分、品質の高いカカオを作るという認識になりにくいのでは? と感じました。けれど、それはあくまで私たち日本人が求めているカカオの美味しさであって、品質を求め過ぎるのも違うのかなと思ったり。複雑ですね……」
「また、現地ではカカオは無農薬で栽培されていました。けれど実際にはお金が無いから無農薬にせざるを得ない。お金があるなら農薬を買って散布したい、という農家さんの実情も知り驚きました。確かに無農薬に越したことはありませんが、その分 1つ 1つのカカオ豆に虫除けの袋を取り付けなければならず、手間や時間もかかり、これもまた重労働……。農家さんにとって少しでも収益に繋がることを考えれば無農薬=良いという考え方も少し違うのかなと思ったりもしました」
【左】1つ1つのカカオ豆に虫除けの袋が取り付けられている【中央】袋を剥ぐと綺麗なカカオ豆が顔を覗かせた【右】農園の風景 (写真提供:牛嶋さん)
「それから、福岡の実家が柿農家なんですが、なんだか農園の雰囲気が凄く似ていました。カカオだけでなくバナナや色んな植物が沢山茂っていて、その中を野生の馬や牛、犬なんかが駆け回っていくんです。福岡の実家の柿畑には動物はいませんけどね(笑)」と牛嶋さん。
「ただ土壌の状態は凄く悪くて、足元が悪い中で作業をしていくんです。それこそ児童労働なんかはありませんでしたが、あのぬかるみの中で収穫作業を行うのは大人でも本当に大変です。けれど、そんな重労働で収穫したカカオは、あまり農家さんの収益に繋がっていないように感じました。というのも、フィリピンではカカオの買取価格が重さだけで決められています。苦労して、工夫して、どんなに美味しい高品質なカカオを納品しても、結局は重さだけで買い取られてしまうんです。ガーナなど一部では国を挙げて高品質なカカオを輸出しようという取り組みも増えてきていますが、フィリピンなどではまだそういった取り組みはありません。そして何よりそんな状況を、消費者である私たち日本人が知らなさ過ぎる。それも問題だと思うんです」
確かにそうかもしれない。多くの人が基本的には商品として完成されたチョコレートしか手に取ったことがないはず。
生のカカオ豆となると、もはや目に触れる機会すら無いように思う。どうやって育てられ、収穫され、加工され、我々の手元に届くのか。きっと想像もつかないだろう(※もし実際に生のカカオを見てみたい! ということであれば牛嶋さんも利用されたタイジュさんのクラウドファンディングを利用してみるのも良いかもしれない。試作のチョコレートを購入するオプションのほか、現地ツアーオプションなどもある)
上記、タイジュさんのチョコレートだけに限らず、実際にフェアトレードチョコレートを食べてみるとカカオの濃厚な味・風味に圧倒される。まだ食べたことがないという人は是非この機会に食べて欲しい。足元が悪い中で汗水を流しながら、1つ 1つに虫除けの袋をかけ、必死に育て上げ、収穫されたカカオ豆。それを元に加工・製造されたフェアトレードチョコレート。
きっとそこには食べるのを楽しみにしている我々消費者への想いも籠もっている。「こちらこそ、いつも本当に美味しいチョコレート(カカオ)をありがとうございます」と直接言えない分、農家にとって適正且つ安定した収入を得ることが出来るフェアトレードチョコレートを選ぶことで、より美味しく、幸せな気持ちで味わうことが出来るのも良いことだと思う。
04:チョコレートだから、出来ること
「でもだからといって、絶対フェアトレード認証商品を選びなさいとか、買いなさいとか、そういうものではないと思うのです。一番良いのはポジティブに興味関心を持ってもらうこと。だからこそ、フェアトレードチョコレートなんです」と牛嶋さん。
種まきチョコレート。フェアトレードへの玄関口。確かに手に取りやすい、フェアトレードの世界に入っていきやすい、そんな存在かもしれない。
「お菓子の中では何というか最もアクセサリーに近くて、可愛いし綺麗だし、他のお菓子には無い絶対的な魅力があって、フェアトレードを広めることが出来る、それこそチョコレートにしか出来ない役割であり、大事なポジションだと思うんです」
まさに子どもから大人まで幅広く愛されるチョコレートだからこそ、身近な存在だからこそ、特別な存在だからこそ、他のお菓子には無い魅力で人を引き寄せることが出来る。
最後に読者の皆様に一言を、とお願いし「えーどうしよう」と笑みを浮かべた後、
「カカオって本当に楽しいですよ! 奥が深いし、広い。きっと一から作業工程を知れば、興味を持って頂けると思います。是非ぜひ飛び込んできて欲しいです。一緒に泳ぎましょう(笑)」と飛び切りの笑顔を見せてくれた。
インタビュー出演:
牛嶋 麻里子さん
福岡県出身
シサム工房本社勤務
今回、取材協力頂いた店舗様
牛嶋さんの写真撮影にてご協力いただきました!
ありがとう御座いました!
シサムコウボウ 京都・裏寺通り店
住所 | 〒604-8041 京都市中京区裏寺町通蛸薬師上ル裏寺町591 |
営業時間 | 11:30~20:00/無休(年末年始除く) |
電話番号 | 075-212-1653 |
交通アクセス | 最寄駅:阪急 河原町駅・京阪 祇園四条駅 |
@写真撮影・取材:FTSL編集部 konchan